(続き)
このように、携帯キャリアが、「販売奨励金」を渡すことで機種代金を安くし、その分、ケータイからインターネットを利用する時は、自分のキャリアの公式サイトを利用してもらうことで、月々の利用料金で回収するという「制度」こそが、日本においてパソコンの世界とケータイの世界が分かれている原因なのです。
そこで、総務省「モバイルビジネス研究会」は、2007年9月に報告書をまとめ、「販売奨励金」という「制度」を廃止し、ケータイ機種の販売と、携帯キャリアの通信事業を分け、公式サイトだけでなく、勝手サイトを利用したり、ケータイサイトだけではなく、PCサイトを利用したりできるように「制度」を変えていく方向を示しました。
今、「制度」という言葉を使いましたが、ここで、社会学の知識を少し紹介したいと思います。
社会学では、一方で、諸個人は「自由」だと考えます。諸個人は、それぞれ自由に欲望を持ち、欲望を実現するために「目的合理的行為」(目的を達成するために有効な手段となり得る行為)をする、と考えます。
社会学は、他方で、人々は「規範」に従った行為をすると考えます。規範とは、社会全体に共有された価値観に基づいて行為の良し悪しを判断する基準、つまり「ルール」のことです。
自由と規範は、互いに対立する面を持っています。即ち、諸個人が「自由」をどこまでも追求していくならば、諸個人は、社会全体に共有された価値観に基づいたルールを無視してしまうため、社会は無秩序の混沌に陥ってしまいます。また、「規範」をとことん尊重するならば、人々は、ただひたすら世の中で正しいとされていることだけをし続け、自分のやりたいことをやっていないというか、自分のやりたいことがない、ロボットのような存在になってしまいます。
つまり自由だけを追求するならば無秩序・無規範になってしまい、規範だけを尊重するならば自由はなくなってしまう。
でも、逆に、諸個人は、規範に従うことでかえって自由を実現し、諸個人が自由に振る舞った結果として規範がより確かなものとして形成されていく、という側面もあります。どういうことでしょうか?
規範というのは社会全体に共有された価値観のことだと言いました。規範が存在する時、世の中の大部分の人々は規範に従っています。
具体例で考えてみましょう。
高校生の皆さんが将来何らかの専門的な職業に就きたいと思った時、大部分の高校生は、その分野の専門的な知識を学べる大学・学部・学科に進学して、専門的な知識を身につけて、その職業に就こうと考えます。IT関係に就職したければ、情報科学系の学部・学科に進学するでしょうし、法律家になりたければ法学部に進学するでしょう。
その場合、「IT関係の職業に就きたければ情報科学を専門的に学ぶべきである」「法律家になりたければ法律学を専門的に学ぶべきである」というのが「規範」です。現在の社会には、「何らかの専門的職業に就きたければ大学でその分野の専門的知識を身につけるべきである」という規範が存在し、大部分の高校生はその規範に従っている訳です。
もし人々がそのような規範に従わなければどうなるでしょうか?独学でIT・情報科学の知識を身につけたり、独学で法律の勉強をするのはその人の自由ですが、とても大変なことではないでしょうか?
情報科学系の学部・学科にはたくさんのパソコンやソフトウェアがあり、IT・情報科学に詳しい先生が大勢いらっしゃいます。独学をするよりも大学で学んだ方が楽だし、効率的に勉強できますね。
同様に、法学部には法律に詳しい先生が大勢いらっしゃいますし、六法全書等の法律の本がたくさん揃えてあります。独学をするよりも大学で学んだ方が合理的です。
このように、世の中の大部分の人々が規範に従っている時には、その規範に基づいて目的を合理的に達成する方法が確立しているので、規範に従った方が「得」なのです。その確立した方法を社会学では「制度」と呼んでいます。
制度とは、規範に基づいて目的合理的に行為するための確立した方法のことです。
規範に従うということは、諸個人が自由に行為する、即ち、自らの欲望・目的を達成するために「制度」に従うということを意味します。つまり、規範に従うことは、自らの欲望・目的にとって合理的なことなのです。
規範に従うことは、一方では、規範によってある程度、諸個人の自由が制限されることを意味しますが、同時に、他方では、規範に従い「制度」として確立した方法で行為することによって、諸個人は、より自由に自らの目的を達成し、欲望を実現し得るのです。
また、他方では、諸個人の目的合理的な行為の蓄積が制度や規範を形成し確立するという側面もあります。
(→(4)に続く)
2008年09月16日
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